リトルニコ爺の手記

わかばだいとかいうハンネでTwitterをやってる人が昔やってたYahoo!ブログから引き継いでリスタートした沼みの深いブログ。

ニッコール千夜一夜物語を振り返る 第一週 F1.8~2級標準単焦点の系譜

やはりライカ判での「標準」は50mmです。50mm単焦点レンズはライカ判が始まって以来今日まで絶えず作られ続けています。はじめての単焦点に50mmを選ぶ方も多いと思います。どのメーカーも50mm交換レンズは出していますしその画質を競い合っていますから、少々大げさですがそのメーカーの代表、メーカーの顔とも云えましょう。レンズ交換式カメラにセットで発売されるレンズ(所謂キットレンズ)はズームレンズが主流になるまでは50mm単焦点が主流でしたし、メーカーにとってもユーザーにとっても非常に重要なレンズです。ニッコール千夜一夜物語でも、標準(45~60mm)単焦点を取り上げた回は14に上ります(81夜まで)。

 

標準単焦点は同世代に3本ほどラインナップされることが多いです。一つが大口径、一つが一段ほど暗く値段も抑えられた所謂「撒き餌」レンズ、一つがマイクロレンズです。ここに薄型レンズや特殊用途用の超大口径レンズが加わることもあります。FマウントAF-S代FXフォーマット対応レンズで言えば、大口径の50/1.4G、撒き餌50/1.8G、マイクロ60/2.8G、上位大口径58/1.4Gとなります。

今回は「撒き餌」と呼ばれる50mmF1.8~2級ニッコールを取り上げたニッコール千夜一夜物語を振り返っていきたいと思います。

 

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戦後すぐ、日本光学が民生に大きく方向転換した際の話です。このころのF2級5cm単焦点は「大口径」レンズでした。というのも、このころの標準は5cmF3.5です。マイクロではないですよ。バックフォーカスの制約の少ないレンジファインダーカメラ用のレンズですのでゾナータイプが用いられています。レンズは6枚ですが群は3、つまり空気との境界面は6面しかありません。中央の三枚貼り合わせが特徴的なレンズです。

 

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時代が下ってレフの世代です。この回は主紹介レンズがAI 50/2ですが-S Auto以降の50/2の解説があります。コートの発達によって空気との境界面を増やせるようになり、また新硝材の登場もあって、レンジファインダー代の終盤にはガウスタイプの標準単も出てきていましたが、標準ゾナーはミラーボックス分のバックフォーカスがとれないため一眼レフの世代になって完全に淘汰されました。中望遠にはゾナータイプの一眼レフ用レンズが残りましたがこちらも後々取って代わられます(cf.第四十夜)。

とはいえガウスタイプでもはじめは今までにないバックフォーカスを確保するのに苦心したようです。50mmへの強いこだわりが7枚玉オート5cmF2を生み出しました。のちに6枚玉へと進化をし、AI代まで受け継がれます。15年もの間光学の基本設計が維持され続けました。

 

千夜一夜に紹介されていないレンズがここで挟まります。AI 50/1.8(旧)です。他メーカーに従う形で50/2から解放F値が1/3段明るくなりますが、長さはほとんど変わりません。1年ほどしか発売されていませんが特段人気というわけでもないのでプレミアは付いていないです。ただなかなか出会えないんですよね。

 

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Nikon EMのお供、AI 50/1.8Sです。国内ではNIKKORですがEシリーズの一員です。「パンケーキ」とも称されるその薄さは、AI 45/2.8Pに勝るとも劣らないといった感じです。このころからだんだんガウスの変形が行われるようになりますが(同様の変形が旧タイプ50/1.8でも行われています)、これは電子計算機の高速化とコートの更なる進化が背景にあるのだと考えられます。自動設計も始まっていたでしょうし(cf.第四十六夜)。この光学系も息が長く、1980年の発売以後、光学の基本設計はそのままに、最終的にはAi AF 50/1.8Dとして2020年までカタログに載り続けました。さすがにZへの移行という時代の波には抗えずディスコンとなってしまいましたが……

 

デジタルの時代になると、2009年にAF-S DX 35/1.8Gが、11年にAF-S 50/1.8Gが、12年に1 18.5/1.8(ニコン1マウントカメラ用)が発売されます。いずれにも非球面レンズが採用されており、撒き餌にも非球面かぁとしみじみ感じます。なおDXとCXの二本は、バックフォーカス長よりも焦点距離が短いため、ガウスタイプの前に凹レンズを配置する後期-S Auto 35/2.8のようなレンズ構成になっています(cf.第三十八夜)。

 

Z 50/1.8 Sはどうでしょうか?シグマが「大きな50/1.4」を発売してから、堰を切ったように各社から大きな大口径標準レンズが発売されるようになりました。Z 50/1.2 Sに至ってはAF-S 300/4Eよりも長いです(300単がかなり小さいというのもありますが)。コンピュータも十分に高性能化しコートも進化している時代において、従来の「大きさ(コンパクトさ)」という厳しい制約をなくせば著しく性能を向上させられるというのは、光学設計者の誰もが感じていたことなのでしょう。業界全体がゲームチェンジャーを待ち望んでいたのかもしれないですね。ちなみにZ 50/1.8 Sのレンズタイプは、ダブルガウスを基調としつつ前後に凹群を配置しており、言わば凹凸凹(凹凸絞り凸凹)のビオゴン型とも考えることができます。

その点、やはりZで「撒き餌標準単」の血を引くのはZ 40/2だと思います。どちらにせよ、撮影光学系のあらましはレフの世代とは一変しています。我々は今まさに歴史の1ページを目撃しているのだと感じさせられます。