リトルニコ爺の手記

わかばだいとかいうハンネでTwitterをやってる人が昔やってたYahoo!ブログから引き継いでリスタートした沼みの深いブログ。

使用雑感:Zoom-NIKKOR.C Auto 1:3.5 f=43~86mm

こんにちは。緑つり革のわ か ば だ いです。C102お疲れ様でした。

C102の新刊、千夜一夜本2の巻末で仄めかした通り、43~86(ヨンサンパーロク、ヨンサンハチロク)の描写に関して、作例とともに改めてまとめてみたいと思います。

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2065272

新刊はメロンブックスに委託しております。よろしければお手に取ってご覧ください。

 

Zoom-NIKKOR Auto 1:3.5 f=43~86mm

Zoom-NIKKOR.C Auto 1:3.5 f=43~86mm

www.nikon-image.com

言わずと知れた「ヨンサンパーロク(ヨンサンハチロク)」、国産初の標準ズームレンズです(正確にはニッコールの3.5~8.5cmF2.8~4がこれより先に発表されましたが残念ながら発売されませんでした)。凸群先行三群ズームで、第二群がズーム中固定となっておりカムの簡略化を図っています。とにかくたくさん売れたレンズです。

レンズ Zoom-NIKKOR Auto 1:3.5 f=43~86mm
発売年月 1963.1
型式 ニコンFマウントズームレンズ
焦点距離 43~86mm
レンズ構成 7群9枚
ズーム構成 凸凹凸
焦点距離目盛(mm) 43 50 60 70 86
最短撮影距離 1.2m
簡易マクロ なし
最小絞り 22
アタッチメントサイズ 52mm
全長 7.1cm
質量 410g
フード HN-3

 

絞りブラケティング

今回は「絞りブラケティング」を用いて描写特性を探ってみました。絞りブラケティングとは、文字通り同じ構図で絞り値だけを変えて(連動してSSやISOも変わる)撮影する方法で、普通はあんまりやらないと思います(よくやるのは露出ブラケットとかSSブラケットとか)。絞りによる描写の変化を見るには当然ながら最適な方法です。

 

描写

改めて使ってみると、やはり結構暴れるなという感じですね。ただ、傾向をとらえることで手懐けることができます。

先に言っておくと、このレンズが最高の光学性能を発揮するのは焦点距離50-70mmの撮影距離3m前後です。(千夜一夜の記事中でそう語られています。)

Nikon D600 + Zoom-NIKKOR.C Auto 1:3.5 f=43~86mm
f/3.5 1/200 86mm ISO800

テレ端開放至近です。よく言えば幻想的な写りですね。中央は比較的芯がありながらもフレアがちな描写で、像高が増すと倍率色収差が載ってきます。ボケもなんというか安っぽく、周辺減光もかなりがっつり出ています。いわゆる「日の丸構図」専用のような描写になります。

f/5.6 1/100 86mm ISO400

クリックはf/4にもありますが5.6で。今回は3.5と5.6と11に絞って撮影しています。

中央部のフレアがなくなり一気に目が良くなったように感じます。周辺の光量落ちも四隅だけになりました(それでも気になる)。ぼけ味の倍率色収差は当然なくなりません。

f/11 1/100 86mm ISO1600

f/11まで絞れば大分安定してきます。被写界深度が深くなって、ピントが入っている域の中でも倍率色収差の影響が出ています。ちなみにテレ端でf/11だと無限遠から10mまでピントが合います。周辺減光はなくなりました。ただなんか周辺が流れてる気がしますね。

 

f/3.5 1/320 60mm ISO800

f/5.6 1/125 60mm ISO800

60mmで至近からやや離れたあたりです。f/11は誤って消してしまったので開放とf/5.6でご容赦ください。

上でも述べた通り、このレンズの最高のパフォーマンスが見られるポジションというだけあり、先ほどとは打って変わって安定した描写になりました。解放ではピント面でのフレアが目立ちますが解像感はしっかりあり、f/5.6でかなり改善されます。ピント面の色収差も縦横共に開放からほぼ出ていないように見えます。開放での後ボケは二線ボケや軸上色収差の影響があり完璧ではないですが絶望的ではなく、ギリギリ許容範囲といったところでしょうか。f/5.6に絞り込めばボケ量が抑えられ自然になります。開放ではやや周辺減光が認められますが、f/5.6でほとんど目立たなくなるでしょう。絞って変わらない収差として歪曲収差はそれなりの量糸巻きの形で出ています。

つまり、このポジションでは結構使えます。

 

f/3.5 1/320 86mm ISO400

テレ端での歪曲収差の量を見ようとした作例ですが、いろいろ出てますね。撮影距離にかかわらず、テレ端では結構暴れるようです。光学系の対称性が失われているので当然といえば当然なのですが、改めてみるといろんなものがたくさん出ています。

f/5.6 1/125 86mm ISO400

f/11 1/125 86mm ISO1600

周辺減光は改善されますが、絞ってもヤバイものはヤバイようです。

 

f/3.5 1/500 43mm ISO400

ワイ端です。像高が高くなくてもしっかりと樽型に歪みます。周辺減光もしっかり出ています。サジタル像面とメリジオナル像面が合っていないのでしょうか、解像感もなんとも言えません。点光源もすごい形してます。撮るのを忘れましたがボケも安っぽくなりそうです。

f/5.6 1/320 43mm ISO400

f/5.6に絞ると解像感が目に見えて改善します。周辺減光も緩くなりますがそれでも四隅で急落します。

f/11 1/80 43mm ISO400

光量が画面全体でほぼ均一になり、点像も良くなりました。ただ画面全体の解像感は未だイマイチだと感じます。ブレかもしれないですが、焦点距離43mmに対してSSが80あるのでブレじゃないかもしれないです。やはりワイ端でも光学系が非対称になるので仕方がないのでしょうか。

 

f/3.5 1/640 70mm ISO400

描写が良くなる70mmの3mくらいでの作例です。ピント面の解像感は物足りなさもありますが、このレンズの中ではかなり良いと言えます。後ボケはよく見ると二線ボケの傾向がありますが許せる量だと思います。よく見ると糸巻き型の歪曲が出ています。多分歪曲収差が出ないようにするには50mmくらいで撮る必要があると思います。あまり気になりませんが当然周辺減光もあります。

f/5.6 1/250 70mm ISO400

後ボケの二線ボケ傾向はよほど点光源ばかり写さなければ気にならないでしょう。デジタルで撮ってるから解像感が足りないように思いますが、フィルムで撮る分にはもうフィルム側の性能の上限くらいまでは解像してると思うので、当時としては十分な性能だったのではないでしょうか。ただ同じ年代でも単焦点レンズなら現代でも通じるレベルで解像してきたりする(フレアが出たりはあるけど)ので、そこらへんはやはり黎明期ズームです。というかそもそも43~86って廉価機向けズームですから。

f/11 1/50 70mm ISO400

絞っても劇的に解像度が上がるわけではないですが、国内初の標準ズームであることを踏まえればかなり健闘していると思います。しれっと周辺減光が無くなってますね。

 

総括

とにかくワイ端とテレ端は暴れます。そういう写真が撮りたいなら43mmと86mmの開放ばかりを使うと求める画が得られるのではないでしょうか。最短なら尚良し。

まともな画を求めるなら、先に述べたように50~70mmの3m周辺を使うことです。結構頑張ってくれます。歪曲を完全に取り去りたいならば50mm近傍あたりが良いと思いますが、ファインダーを見ながら調節すると間違いないと思います。

絞りの使い方ですが、解像感やボケ量も変わりますが最も大きく変わるのは周辺光量だと思います。どの焦点距離でもf/11まで絞れば全画面でほとんど均一になりますし、開放なら周辺の光量が大きく落ちます。日の丸構図で被写体を際立たせたいなら開放やf/5.6あたり、周辺までしっかり写したいなら絞り込む、という運用をお薦めします。というかあまりにも絞りによる周辺光量の変化の幅が大きいので気にせざるを得ません。ちなみに光量落ちは撮影距離が短いほど、また焦点距離が長いほど顕著です(つまりズーム第一群と第二群の距離が長くなるほど大きくなります)。

 

考察

43~86の光学ズームの仕組みは、凸凹凸の3つの群のうち、固定されている凹群に対して前の凸群を近づけるか後の凸群を近づけるかによって、前者ならレトロフォーカス的に、後者ならテレフォト的に作用させて、焦点距離を変化させているというものです。そもそもの構成は凸凹凸という美しい構成、すなわちトリプレット型を踏襲したものとなっているため収差補正には向いているはずですが、これを凹凸や凸凹のような形になるように移動させると、光学的な対称性が崩れ、結果的に収差の補正が難しくなっているのではないかと想像できます。したがって、凸凹凸の形が比較的キープされている中間焦点距離域では性能が良く、これが大きく崩れてほとんど二群構成のようになるテレ端とワイ端では性能も低下する、と説明することができます。凸凹凸三群構成ズームは、簡単な構成のわりに標準ズームを設計できる性能を確保できる反面、ズーム両端では性能が悪化してしまう諸刃の剣だったのです。

とはいえそもそもこの時代、今と比べれば光学設計は未発達で、特にボケまで意識して設計することは単焦点でも難しかったことが、当時の標準単焦点の写りを思い出せば良く分かると思います。ですからワイ端テレ端の写りも当時としてはそこまでのウィークポイントではなかったのかもしれません。周辺光量は覆い焼きをすればどうにかなりますし、そういった点も含めて考えるとこのレンズが「実用的」と評されるのも納得がいきます。つまり60年代前半時点では高性能ズームだった、のかもしれません。

 

このペースで書き進めていくと千夜一夜本2で触れたレンズの使用雑感を書き切るまでに何回コミケを挟むのかって感じもしますがちゃんと全部書き切ろうと思ってます。気長にお待ちください。それでは。