リトルニコ爺の手記

わかばだいとかいうハンネでTwitterをやってる人が昔やってたYahoo!ブログから引き継いでリスタートした沼みの深いブログ。

ニッコール千夜一夜物語を振り返る 第四週 ソフトフォーカスとニッコール

ソフトフォーカス撮影ってやったことありますか?

やったことある人は少数派だと思いますし、なんなら「ソフトフォーカスとはなんぞや」という方もいらっしゃると思うので、軽く説明します。

 

ソフトフォーカス(軟焦点)とは

一般の撮影レンズでは、高解像で再現性の高いものが(当然ながら)良しとされます。しかしながら、高解像すぎることは時に望ましくないのです。たとえばニッコールの切れ味は「モデルの毛穴まで写す」と言われていましたが、これが場合によって被写体の欠点を露わにしてしまうことになります。そういうわけで、光学的に球面収差を大きくしたレンズだったり通常のレンズの前につけるアタッチメント(多くはフィルター)だったりを使用し、あえてコントラストを落としたりフレアを出したりすることが行われてきました。

 

二種類のソフトフォーカスとニッコール

上でも触れましたが、ソフトフォーカスの写真を得るには2つのパターンがあります。第一に専用の光学系を用意すること。第二に通常の光学系にアタッチメントを装着すること。専用レンズは各社数本程度発売した実績がありますが、ソフトフォーカスフィルターと呼ばれるフィルターを通常の撮影レンズの前に装着して効果を得るのが一般的です。

ソフトフォーカスフィルター

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ニコンもソフトフォーカスフィルターを用意しています。現状純正で用意があるものに関してはこれのみになります。

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そして、そのフィルターの前身がこのソフトフォーカスフィルターSoft1, Soft2になります。

一般的な撮影レンズならまだしもフィルターが世代交代?と思うかもしれません。というのも、フィルターはただのねじ込みアタッチメントなのでマウントの仕様変更だとか外装変更だとかがほとんどないんですよね(まあ日本光学は昔からFレンズは原則フィルター径52mmと72mmに統一しようとしてましたし、その前は"NIKKOR FILTER"でしたから皆無ではないです)。実際ソフトフォーカスフィルターの変更は性能やサイズの問題によるものではなく、RoHS指令によるものです。簡単にまとめると、レンズに使用するガラスが限定されてしまい、使えなくなった従来のガラスではできた特殊な製造法が新ガラスでは使用できず、泣く泣く製造法を改めるに至った、というわけです。今日では新品で作りたくても作れない、そんなフィルターです。

一般的なソフトフォーカスフィルターでは、フィルターに微細な傷などをつけることでフレアを発生させます(ニューソフトもこの類です)。しかしこのフィルターはそうではなく、ガラスを化学的に処理して独特な屈折率をもつガラスを作成することでフレアを発生させます。フィルターに凹凸があるとそれがボケに写り込んで綺麗なボケになりませんが、この手法ならばその心配がありません。球面収差を利用したソフトフォーカスレンズは後ボケが綺麗になるのですが、そのようなソフトフォーカスニッコールを作ろうとして頓挫しただけに、ボケへのこだわりは強かったのです。

専用レンズ

NIKKORが誕生してから今まで"Soft"を冠した*1ニッコールレンズ*2は発表*3されていません。

まず*3から。上の回の最後で紹介されていますが、試作品としてSoftfocus NIKKOR-S Auto 105/2.8(斜体部は表記不明)が存在します。非球面レンズを用いた大胆な光学系ですが、試作より先に進まず幻のレンズとなりました。

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続いて*1です。このレンズは"Soft"の名を冠してはいないしソフトフォーカス専用レンズでもないものの、ソフトフォーカス撮影が可能となっています。このレンズ(とAI AF DC 105/2S)はボケ味を自分の好きなように操作できるのです。その機能を活用すると、光学的にソフトフォーカスにすることができます。

このレンズでは、DC(Defocus Control)リングを回すことで光学系の一部を動かし、球面収差の量を調整することができます。球面収差は光線がレンズのどこを通過するかによって結像位置がズレる収差で、このズレがないほどフレアがなく高コントラストな画を得られます。よく「絞ることでピントがずれる」とかいうのは球面収差が大きいことに起因するものです(絞りによってカットされる周縁部を通ってくる光線とカットされない中央部を通ってくる光線で結像位置が違うということ)。こういうレンズでは絞り開放では周縁部を通ってくる光線に合わせてピントを合わせるんだろうと思いますが(だから絞るとピントがずれる)、ここでレンズ中央部を通ってくる光線を基準にピントを合わせると、レンズ周縁部を通ってくる光線はその位置では結像していないためフレアとしてぼやけて写ります。これこそが光学的なソフトフォーカスです。

(前略)DCリング自体はF5.6よりもさらに回転するが、それは元々F11までの目盛りを刻む予定であったからである。結局、絞り込むとボケが小さくなり効果が乏しいため目盛りは廃止になったが、めいっぱいリングを回した時のソフトフォーカス効果も面白いよねという遊び心から、ストロークを削らずにそのまま残している。所有されている方は、DCリングを過剰に回したときのソフト効果もぜひお試しいただきたい。
ニッコール千夜一夜物語 第三十二夜より

球面収差はピント面の写りだけではなく前後のボケの形状にも影響します(そのためのDC)。今回はソフトフォーカス回なので割愛しますが、球面収差のあらましによって後ボケ(または前ボケ)を柔らかい形にしたり二線ボケにしたりすることができます。

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最後に*2について。雑に言えば、「ニッコールを名乗っていなければ」ニコン純正にソフトフォーカス専用(?)レンズが存在しました。その名も「ふわっとソフト」。

なんと1群2枚、ただのダブレットです。球面収差が大きく残存していて、これがソフトフォーカス効果を生んでいます。ひっくり返して像面側に一群一枚のレンズを挿入すればマクロレンズになる変わり種、まさに「おもしろレンズ」です。

 

trains552259.hatenablog.com

次回実際に手持ちのソフトフォーカスを試用してみます。お楽しみに。