リトルニコ爺の手記

わかばだいとかいうハンネでTwitterをやってる人が昔やってたYahoo!ブログから引き継いでリスタートした沼みの深いブログ。

ニコンのDSLRのセンサーサイズはどうなる予定だった?

ニッコール千夜一夜物語の記事では光学設計とレンズの写りを中心に、カメラ・レンズ周縁の時代背景の解説もされることがあります。例を挙げればキリがないですが、D.D.ダンカン氏とニッコールの出会いを語る第三十六夜や、ジャスピンコニカに始まるコンパクトフィルムカメラの広がりに言及した 第三十三夜APSシステムの興りと廃りを解説した第七十五夜などがあります。

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その中でも第六十八夜にはデジタルカメラ黎明期の事業立ち上げに関する貴重な話が収められています。読み応えがあるのでおすすめです。

今回の話題はここからで、本文の結びにしれっとこんなことが書いてあります。

2003年に、D2Hと同時期に発売されたこのレンズは、広角撮影を待望していたD1、D100、D2ユーザーに好評をもって受け入れられ、現在も販売を続けるロングセラーとなっている。それは、最初のデジタル一眼レフカメラ専用レンズとして、高い志をもって設計されていたからかもしれない。例えばこのレンズのイメージサークルは、現在のDXレンズより一回り大きくとられ設計されている。それは開発当時、デジタル一眼レフカメラの画面サイズが大きくなる可能性があったためだが、こうした高い目標が、超広角ではずば抜けた豊富な周辺光量やヌケのよさを生み出し、他のレンズでは出せないこのレンズの味になっているのではないだろうか?

なんとも気になる箇所がありますね?
注)とっくに終売しています。ただつい最近までニコンダイレクトで新品買えました。

 

レンズの詳細な設計は特許文献で確認することができます。今回もいかにもそれだろうと思われる文献を見つけてきた(特開2004-021223)ので参照すると、AF-S DX 12-24/4Gレンズ(2003年6月)のHP上での画角(全画角)は99-61°とありますが、特許文献では102.4~64.9°とあります。このレンズの本当のイメージサークルDXフォーマットのそれより少し広いことが分かります。

ではそのセンサーサイズがどのくらいなのかを考察していきたいと思います。

特許文献上でも焦点距離は12-24mm(厳密には12.3~23.3mm)です。とりあえずテレ端側の画角を使うことにします。レンズの焦点距離f'・画角(半画角)Ω・像高y'の間には
 y' = f' tan\Omega
という関係があります。ここでy'の最大値はイメージサークル半径、すなわち画面サイズの対角線長を1/2倍したものになります。上式にHP上の画角を代入してみると、y'=14.137[mm]を得、これはDXフォーマットのサイズ23.6×15.7[mm](Nikon Z 50、製品により若干異なる)の対角線長の半分14.131[mm]に近い値になります。

この式に特許文献の画角の値を代入してy'を求めてみると、15.260[mm]となり、1mm程度長くなります。Z 50のセンサを拡大することを考えると、辺の長さを15.260/14.131倍すれば良いので、25.486×16.954[mm]となります。

いわゆる換算係数(35mm換算するときの係数)はどうなるのでしょうか。これも対角線長(の半分)の長さの比を使えば求めることができます。FXフォーマットのサイズ35.9×23.9[mm](Nikon Z 8)の対角線長の半分の長さは21.563[mm]で、確認のためにZ 50のそれで割ると1.526を得、1.5に近い値になります(厳密に計算するとまあまあズレるんですね)。同じように計算すると、一回り大きいサイズでは1.413倍となります。ざっくり1.4(1.414)倍ですね。キリがいいです。これを使うと、DX 12-24mmレンズは換算16.8-33.6mm相当の画角で設計されている、ということになります。

 

余談ですが、この話を念頭に置くとAF-S DX 17-55/2.8Gレンズ(2004年6月)のワイ端17mmというモヤモヤも解消されます。1.4を掛けると23.8-77mmとなって24-70mmレンズの画角を含む焦点距離域をカバーすることになります。特許文献を参照しても、17-55は「大きい方」のDXフォーマットのサイズを念頭に設計されていたことが分かります(特開2005-107036)。実際2本目のDXレンズなので、DXフォーマット拡大の計画はまだあったのでしょう。

とはいえ、同時期発売のAF-S DX 18-70Gレンズ(2004年6月)は「小さい方(現行)」のDXフォーマット準拠の設計になっています(特開2005-107262)。17-55Gが発売された頃にはもう現行のDXフォーマットで行くことが決まっていたのかもしれませんし、現在のFXレンズとDXレンズのようにレンズラインを分けるつもりだったのかもしれません。いずれにせよ、初めてのニコンFXフォーマットカメラであるNikon D3(2007年)の計画が立ち上がったことで、DXフォーマットの拡大は消滅したものと考えるのが自然でしょう。