リトルニコ爺の手記

わかばだいとかいうハンネでTwitterをやってる人が昔やってたYahoo!ブログから引き継いでリスタートした沼みの深いブログ。

マイクロニッコールを組んだ話

カメクラなら一度はメ〇カリや〇フオクでジャンクの詰め合わせを買うことがあるだろうと思います。そうでしょう?

僕も先日5千円くらいの詰め合わせをメル〇リで購入しました。ジャンクの詰め合わせとだけあってどうも救いようのない子(エプロン部分がごっそりなくなってるアサヒフレックスなど)もいたのですが、その中でも惜しい子がおりました。いろいろな銘柄のカメラ・レンズが集まる中で密かに期待していたマイクロニッコールオート55mmF3.5です。しかし手に取ったとたん「コトッ」と言いました。なんとユニットが分解されたまま入っていたのです。

触ってみるとどうも足りていないのはヘリコイドとピントリングを固定するネジだけのようでしたので、外観はそれなりですが光学もまずまずですし一応動作すべきところは動作しましたので復活させてやることにしました。

 

マイクロニッコールオート55ミリ

最初のマイクロニッコールはS型ニコン用マイクロニッコール5cmF3.5であったとニッコール千夜一夜物語は伝えています。マイクロニッコールの当初の用途は、新聞や文献などの縮小保存のための縮小光学系。漢字文化である日本では欧州の縮小光学系では解像力不足だったようです(ウムラウトを使うドイツ語圏のレンズの方が英語圏のそれより解像力が高かったとか)。

F型ニコンの時代になって、当然F用のマイクロニッコールが必要になるわけですが、皆さんご存じの通り一眼レフ用とする以上バックフォーカス長を確保する必要があります。5cmF2の標準単焦点レンズを作ることさえ難しかった時代です。マイクロニッコールは5mm焦点距離をのばしてバックフォーカスを確保しました。これが5枚玉クセノタータイプの"5.5cmF3.5"です。

その後、AI-S代になるとCCを搭載し開放F値を2/3段明るくした"55/2.8”が発売されます。これは昨年までの約40年間にわたってMFのニッコールとして愛され続けたほか、AF化もされました。AFの標準マイクロニッコールとしては単体で等倍まで使用できるようにするための改良がくわえられ(それまでの完全自動絞り標準マイクロはレンズ単体で1/2倍まで)、さらに焦点距離を5mmのばした"60/2.8"が発売されました。AF-S代にはIF化した新光学系の"60/2.8"が発売されました。

そして60年に及ぶバックフォーカス長の呪縛から解放されるかのように、Zマウントの標準マイクロニッコール("MCニッコール"らしいですがマルチコーテッドみたいですよね)が50mmで復活したのです。この出来事に興奮したのは僕だけでしょうか。

今回の子は完全自動絞りに対応したMicro-NIKKOR Autoの"55/3.5"です。1963-66年のもので、オート最初期のものらしいです。

 

組み立て

ここからスタート。

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写真1

左からケース(?)・ヘリコイド環(?)・レンズユニット・ピントリング(飾り環(?))となっています(正式名称わからないですが以下この呼び名に統一します)。ヘリコイド環の中と外では彫の向きが逆になっています。ヘリコイド環に固定されたピントリングを回すと、ケース゠ヘリコイド環およびヘリコイド環゠レンズユニットの距離が変化しますが、ケースから伸びる直進ガイド(?)によってレンズユニットはケースに対して平行に移動します。この直進ガイドがレンズユニットを回しているといっても差し支えないでしょう。まあこれを言葉で説明するのは難しいですね。

 

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写真2

組み立て作業に入る前に、ヘリコイドのかみ合わせ位置を調べておきます。組み立て上、2つのヘリコイドはそれぞれかみ合わせ場所が決まっていて、これを守らないと無限遠が出ない・ピントリングの撮影距離表示がおかしくなるなどの問題を生じさせます。

ヘリコイド環とレンズユニットは、ストッパーが当たるようにかみ合わせねばなりません。写真2では2π/3ほどズレているのが分かります。これをやっておくと後でものすごく助かります(後で2π/3だけ回転させて装着すればいいのです。数段のズレは仕方ないのでその場で試行錯誤しましょう)。

 

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写真3

内と外どちらを先にヘリコイド環とつけても変わりませんが、ケースとヘリコイド環を先に合わせておくと後の作業が楽になるでしょう。写真3の位置に来ているのが正解です。

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写真4

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写真5

このときケースを物体側から見たのが写真4です。ケースからレンズユニットに向かって3つのガイドが出ています。写真5がレンズユニットの像側の写真になりますが、挟むタイプのガイドははさみ、刺さるタイプのガイドはちょうど刺さるようにヘリコイドをうまく回転させて合体させる必要があるのが見えるでしょう。しかも、うまく差し込ませることができたとしても無限遠が出なければやり直し。ここが最大の山場です。

なおこのとき、マウント上の絞り連動レバーを必ずマウント上側に持ち上げてください。こうしないとうまくハマってくれません。またレンズユニットの方でも絞りは開放させておきましょう。触ればわかると思います。

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写真6

こんな感じで入れていきます。ヘリコイド環ははじめは繰り出しておいてくださいね。

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写真7

ハマりました。ストッパーも正しくかみ合っています。

ピントリングは物体側からかぶせてヘリコイド環のネジ穴と合わせ、ネジで止めるだけです。

ですが、僕はそもそもこのイモネジがない状態でこの子を迎え入れましたので、適当なものを近所のホームセンターで探して買いました。

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写真8

精密小ネジ 1.4×4[mm] ナベ頭です。レンズのイモネジを交換する人なんていないのでネジに関しての情報も皆無で、ほぼ賭けでした(それなりにまともに考えはしました)。100円ちょっとの賭け。

結果を言うと大正解でした。径は1.4mmで正解、長さも絶妙でした。まあイモネジじゃないので出っ張りはやや気になりますが目をつむりましょう。ナベ頭ってどちらかと言えばボディ用だし。

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写真9

そういうわけで完全に組みあがりました。これで新旧FマウントMFマイクロニッコールを撮り比べられるぞ!

 

露出係数と補正ガイド

全群繰り出し式レンズでは、レンズを繰り出せば繰り出すほど実行F値が暗くなる性質があり(マイクロレンズでなければあまり気になりません)、その実行F値を求める係数を露出係数と言ったりします。撮影倍率を上げると露出係数がかかって本来よりF値が大きくなる(=暗くなる)というわけです。AI AF Micro 60/2.8DなどCPUつきマイクロレンズにはそれらを自動で補正する機能がついているようで、撮影距離が短くなるとボディのF値表示の値が大きくなります。初心者にはややこしい機能です。

このレンズは面白いことに、その露出係数を自動を補正して、絞り環で指定した実行F値になるような仕組みになっています。というのも、写真4の挟み込むタイプのガイドの二つのうち巾が大きいものは通常の絞り制御用ですが、もう一方はガイドの切り欠きがナナメになっています。これが露出係数を補正しているのです(たぶん)。

この効果はF4やF5.6に絞り込んだ上でレンズをのぞきながらヘイコイドを回転させるとよくわかります。なおケースに彫ってある「4」とか「4.5」とか「5」とかが実行開放F値になります。レンズ単体で最短まで寄った時には実行F値は5.6に近くなっているのです。それが計算なしにわかり、補正も不要なのですから、TTL測光のなかった時代にはさぞ重宝したことでしょう。

こんなことに気付けたのもバラバラの状態で入っていたおかげだと思うと、なんだか微妙な気持ちになります。

 

参考文献

ニッコール千夜一夜物語 第二、十八、二十五、二十六、七十四夜

(AI 50/2, AI AF Zoom-Micro ED 70-180/4.5-5.6D, AI Micro 55/2.8(前編・後編), AI AF Micro 60/2.8S)

ほか