株式会社ニコン(社長:苅谷 道郎)の一眼レフカメラとその交換レンズ「NIKKOR(ニッコール)」に採用しているカメラにレンズを装着する機構、「ニコンFマウント」が、今年6月で誕生から50年を迎えます。35ミリ判一眼レフカメラで、独自設計のレンズマウントを現在まで50年間継続して製造するメーカーはほかになく世界最長となります。
ニコン(当時:日本光学工業)は、1959(昭和34)年に発売したニコン初のレンズ交換式一眼レフカメラ「ニコン F」にレンズマウントとして「ニコンFマウント」を採用。ニコンはこのレンズマウントの機械的な形状を変更することなく、時代に合わせた機能を実現し、最新のデジタル一眼レフカメラにも「ニコンFマウント」を採用しています。なお、ほとんどの一眼レフカメラのメーカーでは、オートフォーカス化やデジタル化などを実現するためにレンズマウントを変更しています。
レンズ交換式一眼レフカメラの醍醐味のひとつは、多くの交換レンズが使用できることです。レンズマウントの互換性※を長年にわたり維持することで、より多くの交換レンズが活用できることになります。そのため、レンズマウントはカメラ愛好家やプロフォトグラファーにとっては、極めて重要な仕様です。
※「ニコンFマウント」は、さまざまな機能を実現し進化を続けてきたことから、ニコンの一眼レフカメラと交換レンズのすべてを組み合わせて装着できるものではありません。また、装着可能な場合も機能が制限されることがあります。50年間、機械的な形状を変えていないニコンFマウント。ニコンFマウントは、ニコン一眼レフカメラとニッコールレンズをつなぐだけでなく、使うひとびとの世代と世代をつないできました。無限に拡がる光をとらえて、時を超えて世代と世代をつないでいくことを表現しています。
…というのは2009年の話。ニコンFが発売されたのは1959年ですから、今年(2020年)は61年目となります。とうとう還暦越え。もちろん最長。
しかし、マウントを長い期間変えないことの一番の目的は「緩やかな移行」であると思っていて、最新のカメラ+初期のレンズ(逆もまた然り)の組み合わせは切り捨てられていることが多いです(高いグレードのカメラの方が互換性のあるレンズは多くなっているというのも特徴的です)。一言にFマウントと言っても、60年も続いていますから色々な種類・製品が存在するわけです。基本的にはニコンのホームページ(本文中でもことあるごとにリンクを貼ってあります)から互換性を確かめていただければ良いのですが、それがなぜなのかとか少し深いところを知って、よりFマウントを楽しんでいただけたらと思います。
なお、比較的古い時代のFマウントに焦点を合わせていることからごく最近のレンズの互換性などについては解説が少ないうえ「完全自動絞りを達成しているレンズ」についてのみ解説しています(PCニッコールなどは完全に無視しています)が、どうかご容赦ください。また、この記事では互換性を中心に話をしています。レンズの細かい名称・年代が知りたいという方はこちらへどうぞ。
旧連動方式・Ai方式・CPU方式
カメラとレンズの接点なるFマウントに与えられる最も大きな関心事は、露出計の連動方式です。旧連動方式(従来方式とも)、Ai方式、CPU方式の三つに大きく分けられます。
旧連動方式はニコンFマウントカメラに最初に与えられた露出計連動方式です。カメラに付けられた棒にレンズのマウント付近に設置されている絞り環に付けられた部品(「カニ爪」などと呼ばれます)が引っかかることによってレンズの開放F値と撮影F値を取得し、適切な露出を示す方式です。このころは露出計のないカメラも存在したことから、マウントから少し離れたところに関連部品があります。搭載しているカメラはすべて銀塩カメラです。
Ai方式は開放F値自動補正方式、"Automatic Maximum Aperture Indexing"方式の略称(愛称?)で、レンズを装着するだけで露出計の設定が完了する、マウントの外側に大きな部品の配置がないスマートな方式です。要となる部品をマウント周上にしか持たないため、当時の銀塩カメラはもちろん現在の中上級DSLR機にも採用されています(非CPUのAiレンズとの互換性以外にも理由があったりしますがその話はそのうち)。非常に息の長い連動方式です。
CPU方式は、マウント部に電気接点を設けてレンズ=カメラ間の情報のやりとりを論理的に行う連動方式です。小さな接点で多くの情報をやりとりできるのが利点で、現行のほぼすべてのレンズがこれを採用しています(逆に、ニコンさん未だに非CPUレンズを販売してるんですよね2020年8月、とうとう非CPUレンズのラインナップを終了したとのことです)。
これらの連動方式はいずれも互いに相反するものではなく、同一の連動方式のカメラレンズ間はもちろん、異なる連動方式間でも絞り込み測光で露出計が使えたりします。逆に物理的に装着できなかったり、装着できてもまともに撮影できない組み合わせもあります。また、一つのカメラ・一つのレンズに一種類の連動方式、ではなく、複数の連動方式に対応するものも(結構)あります。今回は連動方式に重点をおいてお話します。
レンズの見分け
旧連動のレンズの見分けは簡単です。絞り環に「カニ爪」がついていれば、その形に関わらず旧連動カメラで(開放測光で)露出計連動します。
(広義の)Aiレンズは、マウント付近の絞り環が欠けていることで見分けることができます。また絞り環の数字が二段になっている、旧連動の爪がついているレンズではその爪に穴が開いているなどで見分けることもできます。露出計連動や装着可否を考えるときには「広義の」Aiレンズかどうかで判断します。
CPUレンズにはマウント部に電子接点が設けられています。またF3AF用AF単焦点レンズの2本とTC-16(S)を除くすべてのAFレンズとAi ~PレンズはCPUレンズです。F3AF用AF単焦点レンズの2本とTC-16(S)にも電子接点がありますが、これらのレンズはCPUを持たず非CPUレンズ扱いとなります。ほぼすべてのCPU連動カメラでは使用不可です。お目にかかる機会はそうないと思いますが。
カメラの見分けと対応するレンズ
カメラ側はこの三種ともう一つに分けることができます。もう一つとは「露出計のないモデル」。これらは絞り環があれば旧連動でもAiでも関係なしに使えます。但し露出計はないです。具体的にはF・F2のアイレベルファインダーなんかがそうです。
旧連動カメラには、カニ爪のあるレンズならば露出計連動、そうでない広義のAiレンズでは絞り込み測光(旧連動カメラには絞り込み機構があります)にて露出計を使用できます。
ただし、露出計なしモデルと旧連動カメラはいずれもカメラは「指定された時間だけ露光する」という機能しかありません。言い換えるとカメラ側から撮影F値を設定し制御することはできません。よって、GタイプおよびEタイプレンズは使用できません。装着できても撮影できないので注意です。
Aiカメラはやや厄介で、まずAiレンズなら問題なく使えますが、Aiでない旧連動レンズが使えるカメラの使えるカメラとそうでないカメラがあります。F2 フォトミックA,AS、FM、FE、F3シリーズ、F4シリーズ、一部のF5とF6、DfはAi連動レバーを倒して(F2フォトミックの二つは押し上げて)非Aiレンズを装着することができます。ただし絞り込み測光となります。つまり「非Aiでも開放測光で露出計連動するAi方式カメラ」はありません(ファインダーを交換することを許容するならばF2が当てはまります。また手動でレンズの開放F値や撮影F値を指定することを許容するならばDfが当てはまります)。Ai連動レバーを倒すことのできないカメラには、非Aiレンズを装着することはできません。もちろん、すべての広義のAiレンズは開放測光で使うことができます。大多数のAiカメラは連動レバーを倒せないので、「基本的に非AiレンズはAiカメラには装着できない」の認識でも大丈夫かと思います。
F3AF以外の電子接点のあるカメラはCPU連動に対応しています(少なくともD1以後のDSLR機はすべてCPU連動に対応)。これにも世代がありますが、こればっかりは論理的な違いになるところもあるので目視では判別しかねるところがあります。基本的に「CPU連動レンズを装着すると露出計連動する」という原則があります(ピンの個数・最小F値警告レバーの有無などによる撮影不可・露出計不動の組み合わせあり)。諦めてこちらへどうぞ。なお、Aiに対応しているCPUカメラにAiに対応しているCPUレンズを装着した際は、CPU連動が優先されます。その際、絞り優先AE時若しくはマニュアル露出時にレンズの絞り環を使うかカメラ本体が制御するかはカメラの性能・年代によります。どちらも選択できるカメラもあります。
AFの可否
AF関係については書いておくべきかなと思うので。F3AF用交換レンズは、F3AF、F-501、F4以外のAFカメラ、F-601Mおよびデジタルカメラに使用できません。まあまず出会わないでしょう…
AF駆動用のモーターを持たないAFレンズ(レンズ名が「AF-S」「AF-I」「AF-P」でない、あるいはレンズマウント上にAFカップリングのメス部がある)は、マウント上にAFカップリングのあるカメラでのみAFが作動します。AFカップリングのないCPU連動カメラではAi-Pレンズ(CPUつきMFレンズ)として使うことができます。なかなか個体数が多く中古値段もかなりお手頃なので、ペンタミラー機ユーザーの方は注意が必要です。
AF駆動用モーターを持つレンズ(F3AF用AFレンズ以外)では、それが登場した後に発売された(?)カメラでAFが使えます。AF-SとAF-Pでその境界が変わってきます。やはりこちらをみれば明らかですが、見た目からは直感的にわからないのが少し面倒ですね。とりあえずEタイプでないAF-Sレンズは全てのデジタル機でAFが使えます。
Gタイプレンズについて
Gタイプレンズではレンズから絞り環が省かれました。これは、カメラ側からレンズの撮影F値を制御できるカメラでしかまともに撮影できないという事を意味しています。よって、撮影F値の設定をレンズ側に委ねている非CPUカメラと一部の初期のCPUカメラ(F-501など)では撮影できません(撮影しようとすると最小絞りまで絞り込まれてしまう)。DSLR機につける上で問題にならない(絞り環をつける必要がない)ので現行のレンズはこれが多いです(すべてのDSLR機で使用可)。フィルムカメラに装着する際にはこちらを良く確認の上でどうぞ。
Eタイプレンズについて
EタイプレンズではGタイプレンズのマウント部からさらに絞り連動レバーが廃されて、バヨネット爪(マウントそのもの)と電気接点のみになりました。絞りは電気的に操作されます(電磁絞り)。これの互換性はこちらで確認するしかないですが、F6含む全てのフィルムカメラと一部の(年式の古い)DSLRカメラで使用ができません。ごく新しいタイプです。
DXフォーマット・DXレンズ
APSフィルムを使用するプロネアを除くと、すべてのニコンFマウント銀塩カメラはライカ版(24*36mm)です。しかしながら、DSLR機には別のセンサーサイズの規格があります。ニコンDXフォーマット(=APS-Cサイズ)カメラはセンサーサイズが従来のサイズ(デジタルではこれを一般に「フルサイズ」、ニコンでは「FXフォーマット」と呼ぶ)の2/3ほどに抑えることで廉価化を達成しています。しかし、センサーサイズが小さくなるということは、レンズの画角のうち中央部のみが切り取られる=画角が狭まるということです。センサーサイズが2/3倍になるということはレンズの画角が2/3倍になる(=画角に対応するフルサイズのレンズの焦点距離(=換算焦点距離)が3/2倍になる)ということなので、たとえばフルサイズ対応広角35mmのレンズをDXフォーマットカメラに装着すると、その画角はフルサイズカメラの画角で換算して52.5mmと標準レンズになってしまいます(実際に発売されているAF-S DX NIKKOR 35mm f/1.8Gは「標準単焦点レンズ」)。そんな中で考えだされたのがDXフォーマットに合わせてイメージサークルを小さくしたレンズ=DXレンズです。イメージサークルとは画像を写す範囲のことで、たとえばイメージサークルの小さいDXレンズをFXフォーマットカメラに装着すると、画面中心を中心、DXフォーマットの対角線を直径とする円の外側(すこし余裕があるかもしれません)には像を成しません。フルサイズDSLR機にはDXレンズを装着した際にDXフォーマットの範囲のみを記録するクロッピングモードが存在したりするようですが、フィルムカメラではそんなことはできないので一切のDXレンズは装着(して撮影)できません。
細かいお話(Ai-Sカメラとか)をしだすと本当にキリがないのですが、Fマウントには三つの連動方式に関する関心・CPUカメラのうち絞り制御可否についての関心・AF方式についての関心、DSLR機においてセンサーサイズについての関心、これらの関心が大きく与えられています。これらを理解していれば撮影のできない組み合わせで装着することもないと思います。時代が下るにつれて与えられる関心が増えているのも事実(つまり余計に難解になっていっている)です。最新の情報は何度も登場しているこちらから。
質問受け付けます。このカメラとこのレンズは装着できるのか、露出計は連動するのか、AFは動くのかなど、レンズ名と写真などあればお答えできるかと思います。遠慮なくどうぞ。ただしニコンFマウント限定でお願いします。