問題があまりにも大きくなり、考えることも増えてきたので、単一の記事にまとめようと思います。
8000字を超えてしまったためアブスト ラク トを付けておきます。
JR東日本千葉支社 は2024年3月のダイヤ改正 で京葉線 のダイヤについて、朝夕のラッシュ時間帯に運行するすべての列車(特急を除く)を各駅停車にするとした。これに千葉県や千葉市 をはじめとする沿線の自治 体が反発し、最終的に3月からの改正ダイヤが変更されることになった。
この問題について、私はJR東日本 の発表の姿勢、沿線自治 体が批判することの是非、そして改正ダイヤが合理的であるか、の大きく3つの観点から考察した。
結論としては、JR東日本 が批判を受けて発表後に一部変更する対応を取ったことは一定の評価ができるものの、発表の仕方やそれに至る道に不十分な点があることは否めなかった。沿線自治 体がJR東日本 の決定に「口出し」することは概ね肯定できると考えた。そして改正ダイヤは様々な観点から支持できるものではないと結論づけ、現実的な解決案をいくつか示した。
総合すると、JR東日本 の鉄道に対する向き合い方には問題があるように見受けられる。
イントロダクション
「京葉線 問題」とは、JR東日本千葉支社 が2024年3月のダイヤ改正 で京葉線 のダイヤについて◇「通勤快速」を廃止すること、◇日中時間帯以外の「快速」を廃止すること(いずれも広報は「種別変更」としている)、および◇特急の減車・普通列車 の減便を行うことを発表*1 し、これに対して千葉県*2 および県内のほぼ全ての沿線自治 体*3 *4 *5 *6 や経済団体*7 が強く反発した騒動のことを指します。
論点は大きく分けて3つあるのではと思っています。一つは発表側として◇JR東日本 の発表や対応について、受け手側として◇沿線自治 体が「民間企業に」口出しすることへの是非、そして最後に◇このダイヤに正当性はあるか?という感じです。
第一報の発表以前
この件について、市長の発言やニュースでのインタビューできかれた言葉に「唐突だ」というものがありました*8 。確かに上記の大きな変更はプレスリリースまで明かされることはなく、「いきなりめちゃくちゃなこと言ってる」という印象を持たれるのは必至でしょう。その内容が沿線自治 体にとって極めて重大なものであることも相まって、強く反発する自治 体が相次ぐといった状況を作り出したといえます。
もしここで11月くらいに「京葉線 の快速運転を大幅に縮小することを検討」とでもリークされて(させて)いれば、ここまでの深刻な対立は防げたのではないでしょうか。沿線自治 体の反発の時期が前にずれるだけだったかもしれませんが、反発は多少なりとも和らげられ、少なくとも「発表後に変更に追い込まれる」事態は防げたはずです。
プレスリリースの内容
「快速通過駅の終日の乗車可能回数」(一部変更後のプレスリリースより)
プレスリリースの伝え方にも問題があります。淡々と説明を進めればいいものを、わざわざ快速通過駅の列車本数が増加することをアピールする表を掲載しているのです。多くの利用者にとってどうでもいい情報です*9 し、そんなことよりももっと伝えるべきことがあるはずでしょう。
これはJR東日本 の悪い癖だと思うのですが、サービス低下を伝える際にわざわざごく一部改良されるところを切り抜くなどして全体のサービスが向上するかのように見せかけるのです。最近だと、このダイヤ改正 と同日に発表になった普通列車 グリーン車 の料金体系変更がそれです。このツイート*10 を見ればグリーン料金が全体的に値下げされるように感じられますが、実際には「50km以下の平日事前」という限られた状況下でしか料金は安くならならず、ケースによっては倍以上値上がりします*11 。この伝え方もあってかこのツイートは軽く燃えていますね。
こういった伝え方は利用者の神経を逆撫でするだけなのでやめた方が身のためだと思います。
変更
変更したことの是非については後で触れようと思います。ここでは変更のプレス*12 の内容について。
ダイヤ改正 の発表の時点でダイヤそのものは(ほとんど)完成しているはずなので、この短期間、そして施行まで残り少ない時間の中でよく変更をかけられたと思います。全線のダイヤが掲載されるJR時刻表 3月号は2月24日発売予定、変更が発表されたのが1月16日ですので入稿期限に間に合っているのか心配になるレベルです。
そして変更した2本の快速のダイヤも「ちゃんとした」快速である点も評価できます。
強いて言えば、もう少し速やかに、あるいはこの期間があればもう少し多くの箇所を修正できたのではないだろうか、とダイヤを自作している身には思えてしまいます。もちろん修正を行ったのは他の系統の路線への直通列車ですし、そうでなくとも京葉線 には武蔵野線 からの直通列車がありますから、修正するのはかなり面倒です。また本物のダイヤ作成ですから運転曲線を描くところから行うわけで、時間がかかるのも納得は行きます。まあここは「年末くらいまでは修正するつもりなかったんだろう」と思っておくことにします。
とはいえこれで問題が解決したわけではないという認識は、自治 体側もJR側も一致するところです。是正に向けて来年の定例のダイヤ改正 まで待たずに改正を行う必要があり、そのつもりであることも両者で一致しています*13 。
沿線自治 体の反発の是非
(引用ツイートも参照のこと。)
JRがダイヤの一部変更を発表したことを報じるツイートへの引用リツイート でよく見られたのが「沿線自治 体の「ゴネ得」じゃないか」「民間企業の決定に口を出すな」といった意見でした。確かに、「民間企業の決定に地元が反発して変更することになった」という部分を切り取れば地元がモンスタークレーマーであるかのように映りますが、この見方は必ずしも適切だとはいえないのではないでしょうか。
たとえばある企業がある土地で成人向け商品を作っていて、それに対してその土地の首長が「市のイメージ低下につながる」「生産をやめてくれ」と言っているなら、それはその土地の首長が非難されるべきでしょう。
しかし本件はこの例えとは事情が異なります。というのも、本件で「企業」が提供している財がインフラであるという点です。
あえて例えるならば、完全車社会の都市があったとして、そこに一店舗だけあるガソリンスタンド(EVは存在しないものとします)がある日突然「ガスの供給量を制限します」と言ったようなものです。それはその会社が勝手に決めればいいことではありますが、その都市の住民としては死活問題であり、反発は必至でしょう。
ついでに言うと、このSSは「一人当たりの供給量の上限を設けることで待ち時間が短くなるよ!みんなハッピーだね!」みたいなことを言いよるのです。「十分な量の石油を確保できなかった。ご理解ご協力を」なら反応はまた変わっていたでしょう。
鉄道によってもちろん地元住民は受益していますが、それと同時に鉄道会社はその土地の住民に乗ってもらわないと事業が成り立たないので(観光鉄道でない限り)、地元住民と「うまくやる」ことは鉄道会社側の利益にもなります。お互いがお互いの利益に貢献している状況下ですから、住民(利用者)側にも発言権は当然あると考えます。幕張メッセ なんかは「あなた方の利益にも直結しますよ」というようなことを言っており*14 、より分かりやすいと思います。
もっと根本的なことを言えば、地方自治 体の首長はその自治 体内の有権者 によって選ばれた代表者です。程度にもよりますが、利用者が会社に文句言っちゃいけないなんてことはないと思います。
JR頼み
www.town.ichinomiya.chiba.jp
千葉駅より先の沿線自治 体では、東京への所用時間や直通列車を売りに移住者を集めているところがあります*15 。これに対して、「その自治 体はJRの厚意に便乗していただけではないか?」という批判はできると思います。ただし、本当に沿線自治 体がJR東日本 に何もしていないのかは十分に確認する必要があると思います。
また、今回反対している人には「京葉線 直通の利便性を掲げて移住者を集めようとしている市役所」だけでなく「それを受けてもう移住した住民」も含まれるわけです。前者が批判するのに違和感を感じるのはありえると思いますが、後者はかわいそうですよね。市役所(市議)としてもそうした市民の声を預かっているので、結局沿線自治 体が文句を言うことは肯定されると考えています。
今回の件で、沿線自治 体の反発を受けて(問題解決にはほとんど貢献していないとはいえ)発表したダイヤを改正までに修正した、という前例を作ったことは鉄道史に残る汚点でしょう。
もはや大手私鉄 やJRといえども、沿線自治 体の存在を無視してダイヤを設計することは出来なくなったといえます。今までも似たような問題は発生していましたが、今回の一件は決定的なインパク トがあるのではないでしょうか。
ダイヤそのものについて
全ての元凶、改正ダイヤは妥当だったのでしょうか。僕に言わせればあんなダイヤはありえないです。言語道断です。
平行ダイヤは京葉線 には向いていない
trains552259.hatenablog.com
「日中のみ快速運転」は現状南武線 や横浜線 で行われています。これらの路線は都心から見て環状方向に走っており、都心から放射してくる各通勤路線を繋いでいます。こういった特性上、各旅客の平均的な乗車時間は比較的短くなると言え、それに従ってホーム上での待ち時間の占める割合が大きくなるため、所用時間よりは本数の多さ(待ち時間の短さ)のほうが重要視されるようになります。よってラッシュ帯は平行ダイヤで本数を稼ぎ、日中はθ方向*16 の移動需要(割合)増加に対応して快速運転、という設計が適しているのです。
では京葉線 はどうでしょう。ご存じの通り京葉線 は中心駅である東京駅に突っ込むr方向の路線です。路線自体もそこそこ長く、さらに蘇我 から先の乗り入れもあります。利用パターンとしては、最寄駅から新木場・八丁堀・東京あたりまで/から乗りっぱなし、というのが基本だと思います。乗り換えが少なく長時間の乗車になるので、本数よりは所要時間の短さのほうが重要視されるようになります。平行ダイヤ化によって短縮される待ち時間よりも通過駅が減る(なくなる)ことによる所要時間増加のインパク トのほうが大きくなるため、平行ダイヤは京葉線 (~千葉以遠直通)に向いていないと言えます。
強いて言えば改正で平行ダイヤにしても「増発する」とは言っていない……どころか減便しますし、特急(実はこちらも減車する)があるので完全な平行ダイヤにはならないです。そりゃあ単純に停車駅が増え所要時間が長くなり乗車率が高まるだけなんですから改悪以外の何物でもないです。
混雑分散には遠近分離の徹底を
そうなると求められるのは「遠近分離」です。遠方、殊に千葉より先に直通する列車は、京葉線 内の停車駅を削ることで速達性を確保すると同時に短~中距離利用者と列車を分けることが適切といえます。
平日朝の新木場駅 東京方面時刻表(Yahoo!乗換案内 より)
JR東は今改正の目的の一つとして「快速の混雑を緩和すること」を挙げています*17 。つまり現状快速に混雑が集中しているということですが、これは単純に快速が少ないからではないでしょうか?
現状の平日朝ラッシュ帯ダイヤを確認すると快速の設定本数はきわめて少なく(おまけにバラバラ)、新木場駅 に7時から9時に到着・停車する44本の列車のうち快速は4本、通勤快速は2本です。これで快速が混雑しているということは快速の本数が足りていない ことにほかなりません。「快速が停車しない駅の利便性を高めること」なんて言っている場合ではないです(快速を増やせば混雑の緩和という面で利便性は向上。あるいは「昼間の」快速をなくすべきでは?)。
京葉線 は路線長は長いですが駅間も長いので私鉄並みに優等の割合を増やす必要はないでしょうし、対面で接続できる快速の停車駅が現状新浦安と海浜幕張 しかないですから、この時間帯の快速をもう2本毎時程度増発するのが現実的な解でしょうか。あるいは朝の時間帯だけでも快速の停車駅を考え直す というのも手です。たとえば快速の舞浜通過や新習志野 停車、検見川浜~千葉みなと通過など。快速と各駅停車の対面乗り換えができるようにしておくことが効果的です。「通勤快速は乗客が各駅停車の7割ほどにとどまっている」件は、よく言われている通り*18 海浜幕張 に停車して各駅停車から乗客を拾うことでそこそこ平準化できるのではないでしょうか。
運行費も安くはならない
www.nikkei.com
こちらの日経の記事で触れられていましたが、全列車各駅停車化は運行にかかる費用という面でも鉄道会社に不利です。車両や乗務員の回転が悪くなるのでその分の増備・増員分、加減速を繰り返す事による電気代の増加やブレーキの消耗などが経営を圧迫する、としています。客扱い中の列車の数(累積時間)が増えればそれだけ車内の蛍光灯や冷暖房、LCD といったサービス電源も消費しますよね。そう言ったところからもこのダイヤが不適切だと言えます。
まとめ
この問題について、私はJR東日本 (千葉支社)のお粗末さに呆れています。いったいこのダイヤを発案した人は何がしたかったのか全く理解できませんし、それを止める人がいないのも残念でなりません。根回しもせず、地元の強い反発にあってから慌てて説明・修正といった有様です。
先日には長時間に亘る新幹線の交通障害(と作業中の二次災害)もありましたし、ここ数年を通してみてもみどりの窓口 の大量閉鎖やゴミ箱の撤去などサービス品質の低下には目に余るものがあります。
鉄道サービスを利用するということは、少々大袈裟かも知れませんが自分の命を預けるということです。人の命を預かる企業がこの体たらくで本当に良いのか?激しく自省し、企業風土を根本から改めるべきと思います。
参考文献
浅井優 奈. 「【1からわかる!】 JR京葉線 なぜ?ダイヤ改正 「見直し」 快速・通勤快速はどうなる? 担当記者が解説」. https://www.nhk.or.jp/shutoken/chiba/article/018/50/ NHK千葉放送局 . 2024年1月18日公開
浅井優 奈. 「JR京葉線 ダイヤ改正 悩む利用者 朝夜の通勤と保育園のワンオペ送迎に密着 “分刻みのスケジュール”」. https://www.nhk.or.jp/shutoken/chiba/article/018/66/ NHK千葉放送局 . 2024年1月26日公開・同27日更新
「通勤快速がなくなる? 3月JR京葉線 ダイヤ改正 関連記事一覧」. https://www.chibanippo.co.jp/news/other/1146874 千葉日報 . 2024年1月31日公開・随時更新
「JR京葉線 」. https://www.tokyo-train-master.com/je-keiyo 路線攻略本. 2024年2月7日閲覧 (京葉線 の種別ごとの停車駅を確認できます)
「京葉線 」. https://www.haisenryakuzu.net/documents/jr/east/keiyo/ 配線略図.net. 2024年2月7日閲覧 (京葉線 の配線図を確認でき、退避が可能な駅がわかります)